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【移住者】自分の時間をぜいたくに生きる
Yさん(会社経営)
(50代) 美山地区(愛知県から移住)
真っ赤に染まった楓に導かれて
「いずれ田舎へ引っ越そうと決めていました。4、5年前から岐阜県内を中心に移住先を探し始め、温泉旅館や山奥の大きな古民家なども見たりしました。その中でも、この家との出逢いは運命としか言いようがありません。初めて訪れたときは、草が生い茂り、この先に家があるのかと心配になりましたが、高台の家へと伸びる坂道の両側には真っ赤な楓が立ち並び、その先には穏やかな杉林が広がっていました。隣接する家はないので誰に気兼ねも要らない。その解放感も心地よかったですね。眼下に杉林が広がる西側に露天風呂を作って、家の周りはウッドデッキで囲もう。そんなイメージが浮かんできました」
楽しさ半分、辛さ半分のDIY
「昨年6月に購入し、すぐに床、屋根、壁の修繕を始めました。一番大変だったのは屋根ですね。雨漏りがひどかったので、瓦と土をすべて落とし、下地に杉板、その上から合板を打ちつけました。屋根工事がひとまず完了した9月に家族で引っ越して、今は住みながら、ウッドデッキや露天風呂の工事を始めています。正直なところ、DIYでのリノベーションは楽しさ半分、辛さ半分です。長引くと嫌になってしまうかもしれないと思って、急ピッチで進めました。以前は名古屋の戸建てやマンションに住んでいて、コンビニエンスストアも近くにあって便利でしたが、それと比べても今は特に不自由を感じていません」
時代は変わった。何のために生きるか
「私はさまざまな業態の飲食店を経営してきて、今は経営コンサルタントをしていますが、お金中心の都会暮らしに疑問を感じていました。それはコロナ禍で確信になりました。時代は変わった。自分が本当に求めているもの、望んでいるものは何かを一人ひとりが見極めて、暮らしを変えていく時期なのです。いくらお金があっても、安全な食がなければ生きてはいけない。私はそう思って移住しました。試験的に地鶏を飼い、農地を借り、種苗販売を視野に入れています。IT化が進み、今は田舎でもビジネスが可能です。いや、これからはむしろ田舎にこそビジネスチャンスはあるのではないでしょうか」
満天の星、雪見酒に酔う
「美山は、名前の通り自然が本当に美しい。夜空には満天の星。冬には雪見酒が最高です。昨年末は6年に1度この地区が神社の祭りの当番だそうで、地元の皆さんとしめ縄づくりなどお正月の準備をさせていただきました。とても気さくな方ばかりでお酒を酌み交わし、6、7時間も語り明かしたんですよ。ここにいると、時間がゆっくりと流れていきます。自分らしく生きる。それがこれからの時代の豊かさなのではないでしょうか。知人や後輩たちもいずれ移住したいと言っています。その相談にも乗っていきたいですし、実際に移住したときには工具を持って手伝いにも行きたい。春が待ち遠しいです」
(令和3年3月掲載)